●災害や感染症が発生した時、会社の業務が止まってしまうかもしれない。
●突然の停電やシステム障害で、取引先との信頼を失った経験がある。
●もし明日、サーバーがダウンしたら、自社の仕事は何日で再開できるだろうか。
多くの中小企業が、事業の継続に不安を抱えている。
事実、中小企業庁の調査では、BCP(事業継続計画)を策定していない企業は約6割にのぼる。
しかし、BCPを整備している企業の多くは、災害やシステム障害の際に被害を最小限に抑え、早期復旧を実現している。
本記事では、初心者でも理解できるように**「BCPとは何か」「なぜ必要なのか」「どのように作るのか」**をわかりやすく解説する。
最後まで読むことで、あなたの会社でもすぐに実践できるBCPの基本が身につく。
今から始めても遅くない。事業を止めない企業の第一歩を踏み出そう。
BCPとは?企業を守る「事業継続計画」の基本
BCPとは「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略である。
自然災害や感染症、システム障害などの緊急時でも、重要な業務を継続し、早期に復旧させるための計画を指す。
企業が危機に直面した際、何を優先して守るかを事前に決めておくことで、混乱を最小限に抑えられる。
人命・設備・情報・供給網など、企業の根幹を支える要素を守る仕組みがBCPの目的である。
項目 | 内容 |
---|---|
名称 | Business Continuity Plan |
日本語訳 | 事業継続計画 |
主な目的 | 事業を止めない、早く復旧する |
対象リスク | 地震・台風・感染症・サイバー攻撃など |
BCPは「もしも」ではなく「いつか」に備える仕組みである。
危機が発生してから対応を考えるのでは遅い。BCPは、企業の信頼性を高める最も重要な経営基盤といえる。
なぜBCPが今、注目されているのか
BCPが注目を集める背景には、リスクの多様化と被害の拡大傾向がある。
近年では災害だけでなく、感染症やサイバー攻撃による業務停止も相次いでいる。
中小企業庁の調査によると、BCPを策定している企業の事業継続率は95%以上。
一方で、策定していない企業では復旧までに数週間かかるケースも多い。
BCPは単なる「災害対策」ではない。
経営リスクを最小限に抑え、顧客や従業員を守る経営戦略の一部である。
さらに、取引先からの信頼獲得や融資審査の加点要素になることも多く、企業価値向上にもつながる。
BCPと防災計画・危機管理との違い
BCPと混同されやすいのが「防災計画」と「危機管理」である。
3つの違いを整理すると、目的と対応範囲の差が明確になる。
項目 | BCP(事業継続計画) | 防災計画 | 危機管理 |
---|---|---|---|
主な目的 | 事業を継続・早期復旧する | 人命・設備を守る | 危機を未然に防ぐ |
フェーズ | 被害発生後~復旧まで | 被害発生前~発生時 | 発生前中心 |
対象範囲 | 経営・業務全体 | 建物・社員 | 情報・信用など |
防災計画が「被害を出さないための備え」であるのに対し、
BCPは「被害が出た後に事業を継続させるための仕組み」である。
つまり、BCPは「事後対応」の視点を持つ経営戦略だ。
BCP策定のメリット
BCPを策定することで得られる主なメリットは、次の4つである。
-
事業の早期復旧
被害が発生しても、優先業務を迅速に再開できる。
業務手順や連絡体制をあらかじめ決めておくことで、混乱を最小限にできる。 -
取引先・顧客からの信頼向上
BCPが整備されている企業は、緊急時にも対応力があると評価される。
サプライチェーンの一員として選ばれやすくなる。 -
従業員の安全と安心を守る
連絡ルールや避難指示が明確になるため、従業員が安心して行動できる。 -
保険や補助金の優遇
一部自治体では、BCP策定企業に対して補助金や金利優遇制度がある。
BCP策定の基本手順
BCPは、以下の5つのステップで策定する。
ステップ | 内容 |
---|---|
① | 重要業務と経営資源の洗い出し |
② | 想定リスクと影響度の分析 |
③ | 優先業務の継続方針を決定 |
④ | 代替手段・復旧手順を策定 |
⑤ | 訓練・見直し・改善を実施 |
① 重要業務と経営資源の洗い出し
まず、企業活動の中で「止まると致命的な業務」を特定する。
例えば、受発注業務・顧客対応・システム運用などである。
同時に、それを支える人員・設備・データも洗い出す。
② 想定リスクと影響度の分析
次に、どのようなリスクが業務に影響を与えるかを分析する。
災害・感染症・サイバー攻撃・停電などをリスト化し、発生確率と影響度を評価する。
③ 優先業務の継続方針を決定
すべての業務を同時に再開するのは不可能である。
優先順位を決め、**復旧目標時間(RTO)と許容停止期間(MTPD)**を設定する。
これにより、限られたリソースで最大限の効果を得られる。
④ 代替手段・復旧手順を策定
被災時に利用できる代替設備や拠点を決める。
データのバックアップ、在宅勤務の仕組み、クラウド利用なども重要な要素である。
手順書を作成し、誰が・いつ・どのように行動するかを明確にする。
⑤ 訓練・見直し・改善
BCPは一度作って終わりではない。
年1回以上の訓練を行い、課題を洗い出して更新する。
人事異動や新システム導入など、環境の変化に応じて改善することが重要である。
BCP策定企業の成功事例
BCPの実践によって成果を上げた企業の例を紹介する。
A社(製造業)
地震によって工場が一部停止したが、代替生産ラインを用意していたため、3日で再稼働を実現した。
B社(IT企業)
感染症拡大時に全社員がリモートワークへ切り替え。事業を中断することなく継続した。
C社(物流企業)
サーバーダウンを想定したバックアップ体制を構築。データ損失ゼロで再稼働した。
D社(建設業)
協力会社と共にBCPを共有し、緊急時の資材供給を維持した。
これらの企業は、BCPを単なるマニュアルではなく、経営戦略の一部として運用している。
BCP策定で失敗しやすいポイント
BCPの多くは「作っただけ」で終わることが多い。
失敗を防ぐためには、次の4点に注意する必要がある。
-
実行可能性の低い計画
理想論ばかりで、実際には行動できない計画になっている。 -
部署間の連携不足
各部署で個別に策定しており、全体として整合性がない。 -
訓練をしていない
実地訓練を行わないと、緊急時に誰も動けない。 -
更新されていない
数年前の情報のままでは、今の業務体制に合わない。
BCPは運用・改善の継続によって価値を持つ。
作成よりも「運用フェーズ」が最も重要である。
BCP策定を支援する公的機関とツール
中小企業庁や自治体では、BCP策定を支援する仕組みがある。
支援機関 | 内容 |
---|---|
中小企業庁 | BCP策定運用指針・無料テンプレート提供 |
各自治体 | 研修・補助金・専門家派遣 |
商工会議所 | 無料相談・勉強会 |
独立行政法人中小企業基盤整備機構 | 専門家による策定支援 |
公式テンプレートを利用すれば、初めてでも手軽に作成できる。
専門家のアドバイスを受けながら進めることで、より実践的なBCPを構築できる。
まとめ:BCPは企業の「生存戦略」である
BCPとは、災害や危機の中でも事業を継続するための経営計画である。
策定によって、事業の早期復旧・信頼性向上・従業員保護など多くの効果を得られる。
経営者にとって重要なのは、危機が起こる前に備えること。
「今、何も起きていないから大丈夫」と考えるほど、危機対応は遅れる。
今日から一歩でも前へ進めることが、明日の企業存続を決める。
まずは、自社の重要業務を洗い出すことから始めてほしい。