その電話が入ったのは、親しいお客様とマージャンをやっている時でした。義母からです。秋田に旅行中の私の妻が倒れて今救急車で運ばれたという知らせでした。
私は急いで雀荘を出て、秋田に向かうべく静岡の社宅に向かいました。タクシーに乗っている最中、あの元気な女房が......とずうっと考えてました。
中学・高校とバレーとテニスで、いろいろな大会で活躍し、北海道時代は二年半という短期間でスキーの指導員に合格するというスポーツ・ウーマンです。
社宅に戻ったのは、9時前でした。静岡から秋田への行き方を思案しながら、ひとまず、搬送先の病院へ電話を入れました。すると、
「今息を引き取りました......」
という医者の凍りつくような声でした。
その夜、義母、義弟、小学5年になる息子を連れ、秋田に向かい一晩中クルマを走らせました。
そして妻と再会したのは病院の霊安室でした。
初めて霊安室という中に入った私。そしてそこには妻が目を閉じていました。
何で俺はここにいるんだろう......。
何で妻はここで目を閉じているんだろう――。
呆然とそんなことを考えていました。そして一人息子の小学校五年の長男が、大粒の涙を零し、「お母さん!」と呼ぶ声が耳に入りました。
そして私は目の前の現実を受け入れました。