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「"根のある暮らし"から始まる集い・新しい文化・まちづくり 世界遺産のまち、石見銀山(島根県大田市大森町)」 

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人口430人の小さな町に年間50万人が訪れる

 

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深く広がる緑の山あいに、赤茶色の屋根の小さな集落があります。人口わずか430人ほどの町。日本最大の銀山だった石見銀山のある島根県大田市大森町。石見銀山遺跡とその文化的景観は、20077月、世界遺産に登録されました。銀山が活況を呈していた江戸時代には、20万人が住んでいたといい、銀山川に沿った街道には、今も武家屋敷や商家、神社などが点在し、江戸時代の面影が残っています。

 

その大森町には世界遺産に登録される前から、国内のみならず世界各地から人が訪ねてきていました。その地で四半世紀以上、土地の力や日本の田舎暮らしを起点としたモノづくりをし、独自の世界観を創り上げてきた松場登美さんという一人の女性に会いに来るのです。       「群言堂」と名付けられた、服飾雑貨とインテリアのブランドの本社と本店がこの町にあります。店には年間10万人が訪れ、全国の百貨店や専門店でも販売をしています。

 

1987年に、松場さんが最初にてがけたのは、地元の女性たちが作った和風パッチワークのポーチやエプロンを販売する一軒の店でした。しかしそこはモノを販売するというより、人の出会う場所を作ろうと、"コミュニケーションクラブ・ブラハウス"という看板を掲げたのでした。江戸後期、弘化4(1847)年に建てられた商家を入手し、1部屋だけ改装してオープンさせたものでした。その後、毎年一部屋ずつ改装し、18年かかって現在の姿まで再生させたといいます。

 

復古創新。日本の田舎暮らしから生まれる「群言堂」のモノづくり

 

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「日本人が生活で使ってきた道具は、本当に理にかなった使い方をしているものが多いですよね。かまどでご飯を炊くにしても、銅壺(どうこ)があってそこにお湯が沸くようになっていて、そこで洗い物もできてとか。随所にそんな知恵の詰まったものがありましたから、それらを残していきたいのです。」

 

松場登美さんは、石見銀山での暮らし、田舎暮らしから発想し、日本の素材、技を活かしたモノづくりを全国各地の職人さんや工場に制作を依頼してきました。日本人の繊細さやモノづくりの感性を、少しでも受け継いでいきたいからだといいます。古いものを復元しつつ、新しい価値を付加し創造する"復古創新"が「群言堂」のモノづくりのコンセプトです。

 

建物の意志を尊重し、再び命を吹き込む

 

松場夫妻は、これまでに6つの古い武家屋敷や民家を買い取り再生してきました。必ずしも青写真や中期計画があったわけではありません。自らが望むというよりは、気が付くとなぜか自分たちが再生をてがけることになっていたといいます。石見銀山本店、「群言堂」(ろうそくの家と呼ばれる交流・イベントスペース)、かやぶき屋根の「鄙舎」(ひなや。本社敷地内にあり、イベントや社員の休憩

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室として利用)、ワークステーション(本社)、「竹下家」(古民家、社員寮)、そして築230年の武家屋敷である「他郷阿部家」の6軒。いずれも廃墟同然に傷んでいたものを、大幅に改築し、新しい命を吹きこみ、働く場、暮しの場として蘇えらせました。

 

登美さんは、自ら阿部家に住み、かまどでご飯を炊き、庭先の季節の野草を食材にするなど、田舎暮らしを実践しています。その、阿部家には紹介者のみですが泊まることもできます。単なる宿泊業だとか飲食業だとかいう位置づけではなく、いろんな人の実家づくり、故郷づくり、田舎づくりをこの家を使ってしていきたい、都会から失われてしまったものを阿倍家を通じて伝えていきたいとおっしゃいます。そして「石見銀山生活文化研究所」を設立し、その所長も務められています。

 

「根のある暮らし」。その暮らしをつないでいく

 

最近ある客人から「建物でいえば民家再生ですよね。だけど土地の再生とか、人も再生されるというか、ここは全てが再生されるところですね」と言われたといいます。

確かにそうです。コミュニティの寄りあい所として始まった「群言堂」一号店。10年にわたって開催された「雛(ひな)の集い」。季節ごとのイベント。そして現在、「阿倍家」の台所では客人と大吉さん、登美さん、

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時には群言堂のスタッフも一緒に、地元の季節の食材を肴にお酒を飲みながらワイワイ色々な話をしていています。若い人たちも働きたいと全国からやってきています。407人の町で、群言堂には50人が働いているのです。

 

登美さんは、来訪者や若いスタッフに"根のある暮らし"をつないでいきたいといいます。根のある暮らしとは、地域に根ざした暮らしです。根が深く広く伸びているからこそ、樹木も何百年と青々と茂り続けることができるのです。

 

「石見銀山 大森町住民憲章」の前文は、「このまちには、暮らしがあります。私たちの暮らしがあるからこそ、世界に誇れる良いまちなのです。私たちは、このまちで暮らしながら、人との絆と石見銀山を未来に引き継ぎます。」とあります。古い町並みに、新しい時代の息吹を吹き込みつつ、そこで暮らしながら、次の世代につないでいく姿がそこにはありました。       

 

※群言堂ホームページ http://www.gungendo.co.jp/

※石見銀山生活文化研究所 所長 松場登美さんインタビュー(国土交通省認定 観光カリスマ)

http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanko/ms_matsuba.html

 

2008年9月

大和田順子(NPO環境立国 理事/LBA共同代表)