今年3月中旬、1500人を超える人たちが都会から田舎へと旅立ちました。農林水産省が今年度(平成20年度)の補正予算で急遽実施が決まった「田舎で働き隊」(農村活性化人材育成派遣支援モデル事業)という事業が始まったのです。
これは、農山漁村地域における活性化に関心を持つ、都市部の人材等の活用を目的とする人材育成システムの構築に向け、人材育成や都市と農村をつなぐ能力を持ったコーディネート機関(事業実施主体)に対して支援を行うというものです。全国で70の団体(企業、NPOなど)が事業の採択を受け、実施しました。
その中の一つ、NPOえがおつなげて・関東ツーリズム大学が主催する「田舎で働き隊」の活動をお手伝いしましたので、その様子をお伝えしたいと思います。
「関東ツーリズム大学」は、1都10県のNPOや企業が連携し、都市と農村の交流を深める体験プログラムを実施する機関です。
今回の「田舎で働き隊」では、そのキャンパスとなる8地域で、90人が農業、林業、森林酪農、古民家再生などの研修に参加しました。
参加者は16才?67才、性別国籍問わず。高校生、大学生、休職中の人、NPO、会社員、主婦、クリエイター、定年退職者と多彩でした。外資系企業に勤めていて3月に解雇になった人、家電メーカーの工場で派遣社員として働いていて年末に解雇になった人など、金融・経済恐慌の影響で職を失った人も何人かいらっしゃいました。
年齢も職業も様々な人たちが寝食を共にしながら一緒に仕事をする、こんな研修はあまり他に例を見ないのではないでしょうか。参加された方々のプロフィールを一部ご紹介しましょう。
限界集落での開墾・農業 山梨県北杜市・増富キャンパス (29才 男性)
「大学では農学部で学び、食品関連の物流会社で3年、地元群馬に戻り2年飲食店で働き、現在は農家の手伝いなどアルバイトをしています。一日も早く農業分野で定職に就きたく参加しました。」
写真:開墾は生きる力を蘇らせる
江戸時代の古民家を再生 山梨県北杜市・須玉キャンパス (33才 男性)
「現在、建築を学んでいますが、実際に古民家を再生する場面を見ることがなかったので参加しました。いずれは古民家を店舗とした観光農園を営みたいと思っています。」
写真:江戸時代の古民家。畳・床をはがして
都市農山村交流事業 山梨県北杜市・白州キャンパス (34才 女性)
「東京で企業に勤めていますが、休暇を取って参加しました。3年以内に農村と都市をつなぐビジネスを始め、日本の食糧自給率を上げるムーブメントを起こしたいと考えています。」
オーガニックコットン栽培 長野県・小諸キャンパス (50才 男性)
「作品を作りながら森の手入れや、使われなくなった田畑の再生など始めたところです。作品の素材として紙とコットンをよく使っていますが、素材そのものを、綿を作るところから知りたい、いずれは自分でも作りたいと思い参加しました。」
森林酪農 栃木県・那須キャンパス (18才 女性)
「小学校の牧場体験で酪農に関心を持ち、畜産課のある農業高校に進学しました。牛にも森林にも人にも利点のある森林酪農を学びたいと思い参加しました。将来は酪農に従事したいと考えています。」
今回の研修は1週間前後と短かかったのですが、都会育ちの華奢で色白な女性も日焼けして、にわか作りの農婦のようになっていたり、有休農地を再生する活動に参加している研修生の、「遊休農地の開墾は、田畑を蘇らせます。同時にまるで自分自身が生まれ変わるように感じました。」という言葉が印象的でした。
来年度も各地でこの事業は続くそうです。事業を通じて、新規就農や地域の特産品を商品化する人材などが続々と育っていくに違いありません。次の時代を創る鍵は地域に、農山村にあるからです。
かつて地方から集団就職してきた若者の写真を見たことがあると思いますが、あれの逆です。今、多様な人々が田舎に旅立つ。そんな光景でした。時代も政策も確実に舵を大きく切っていることを感じます。
※農林水産省 「田舎で働き隊」(農村活性化人材育成派遣支援モデル事業)
http://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/zinzai/index.html
※NPOえがおつなげて 関東ツーリズム大学
※地域の健康コラム 第4回 「サステナブルな小さな村づくり。山梨県の集落の挑戦」
http://www.469ma.jp/health/2008/12/post-9.html