最近、「生物多様性」という言葉を見聞きしませんか?来年10月に、生物多様性条約第10回目締約国会議(COP10)が愛知・名古屋で開催されます。それに向けて各界で徐々に関心が高まっているところです。
身近にこの「生物多様性」を感じることができるのが、田んぼの生きもの、植物調べです。夏休みに入り、田舎に帰省する人も多いと思います。そんなとき、田んぼ、できれば無農薬・無化学肥料で稲を育てているところが良いですが、ぜひ訪ねてみてください。生物多様性とは虫や野草など"生きものの賑わい"のことなんですね。
私は、7月中旬、長野県飯島町の「アグリネイチャーいいじま」で開催された2泊3日の「アグリ・ネイチャー・スチュワードシップ養成ビジネススクール」という研修に参加して、田んぼの生きもの・植物調べを体験してきました。
アグリネイチャーとは"農業自然"で、スチュワードシップとは"番人"という意味です。
まず、長野県飯島町がどんなところかご紹介しましょう。飯島町は長野県の南部、伊那谷のほぼ中央に位置し、西に中央アルプス南駒ケ岳を仰ぎ、東には仙丈岳を中心に南アルプス連山を遠望する人口約1万1千人の田園地域です。
飯島町へは中央自動車道、JR飯田線などで東京から約3時間、名古屋からは2時間ほど。
飯島町には1000ha農地がありますが、"持続可能な農場"として4つの法人によって運営されています。7月中旬は、色々な野草が花をつけ、田畑には稲や黄金千貫(こがねせんがん)という焼酎の原料になる芋の苗も青々としていました。果樹園では栗の花が終わり、小さな実をつけ始め、ブルーベリーが実りの時期を迎えていました。
※レポート http://soratsuchi.com/owada/2009/05/npo.html
アルプスに囲まれた田園地帯(松木洋一先生撮影)
◆田んぼの生きものは賑やかで
「田んぼの生きもの調査」を指導して下さったのは宇根豊さん。福岡でNPO法人「農と自然の研究所」の代表理事を務めています。元々は農業改良普及員で、1978年より「減農薬運動」を進めてこられた。『田んぼの学校』や『「百姓仕事」が自然を作る 2400年目の赤とんぼ』といった本の著者でもあります。
全員で20分ほど、田んぼに入り、色々な生きものを発見しました。裸足で、ゆっくり歩いて、水中や水面、稲もじっくり眺めて生きものを探します。男性の参加者は子供時代に還ったように、ワイワイやっていましたが、私も大いに楽しみました。
田んぼの100?の範囲に25種類の生きものがいました!その一部の名前を紹介すると、
【害虫】稲水象虫、稲ツト虫、イナゴ など5種類
【益虫】、秋アカネ 殿様ガエル、菊月子守グモ など10種類
【ただの虫】コオイムシ(子負い虫)、ミズカマキリ、チビゲンゴロウ、ミジンコなど10種類
ただの虫 ミズカマキリ
ただの虫 コオイムシ。 卵を背中にしょってますね
この三つ目の分類の"ただの虫"が重要なんだそうです。害虫や益虫は稲にとって害か益かという視点で分けているので、いうなれば稲作への"有用性"で害か益かのラベルを貼っているわけです。そして、"ただの虫"は薬にも毒にもならないもので、これこそが、生物多様性、その自然の豊かさを物語っているのです。
生きものの種類を数え終わったら、「また会おうね」と声をかけて、田んぼに返してあげます。人に別れを告げるときと同じです。「See you again. また会おうね」
◆畔や湿地にも沢山の野草が
続いて今日は、田んぼや畔を歩き野草を観察しました。講師は神戸大学の伊藤一幸先生です。私は野山を歩いていると、食べられるかどうかという眼で野草を見てしまうのですが、この見方は決して間違いではありませんでした(笑)。伊藤先生も「まずはそれが関心を寄せる第一歩。私も野草を食べるセミナーなどよく開催していますよ」とのこと。たんぽぽの根、よもぎ、タウコギなども食べられます
田んぼの中にはクログワイやイヌホタルイなど、いわゆる雑草と呼ばれて草取りされるものですが、オモダカや水生植物として観賞用に良さそうなものも色々ありました。農家にとっては雑草取りが大変なのですが、農薬をまいても、それに耐性ができてしまうものもあり、水深を深くするとか、タイヤチェーンを引いて歩くとか、農薬を使わない色々な除草技術が活用されているそうです。
雑草オモダカ。白い可憐な花をつける
畔の近くの湿地帯にはミクリという絶滅危惧種の珍しい野草もありました。飯島町は生態系が豊かです。
ミクリ
そして、アグリネイチャーいいじまの敷地内にあるビオトープにはハッチョウトンボという1円玉位の大きさの赤いトンボも飛び始めていました。
ハッチョウトンボ
田んぼは色々な虫や植物など生きものが棲息する場所なんですね。ぜひ、田んぼの草取りと、生きもの調べに行ってみてくださいね。