欲しくても買えない野菜やお米があります。何でもお金を出せば物は買えると思っていたのですが、そうでもない世界がありました。
一年前、2009年1月に埼玉県小川町にある有機農家「霜里農場」を訪ねました。霜里農場の金子美登さんは、有機農業を始めて約40年、草分けのお一人です。今年1月5日にNHK「プロフェッショナルの仕事の流儀」に出演されましたので、ご覧になった方もあるかもしれません。
昨年私が参加した農場見学会は2ヶ月に1回開催されています。50人位の人が東京や神奈川などからも参加していました。(NHK放映の影響で今年は3、5、7月ももう定員になってしまったそうですが・・)農業を志している人も来ますが、多くは一般の人です。
金子さんのお話を聞き、続いて農場をぐるっと見学します。お話をお聞きし見学するうちに、ぜひ金子さんの野菜を買って帰りたい、食べたいな、という気持ちがムクムク湧いてきます。でも、買うことはできません。一般には販売していないのです。
少量多品種の野菜が植えられている農場
30年以上前から、金子さんは直接消費者に届けてきました。農薬や化学肥料を使わず、じっくりつくった土で育った野菜。有機農家を支えよう、そして自分と家族の安全で美味しい食を支えてもうらおう。生産者と消費者の"提携"というスタイルです。野菜は定期的に届けられ、それに消費者は支払うというものですが、金子さんの場合は"お礼制"と言って、値段は消費者が決めるのです。「心をこめて手塩にかけて育てた野菜に値段をつけるなんてできない」、と金子さんは思っているのでしょう。
この"提携"という、生産者と消費者が支え合う関係を提唱したのは、「日本有機農業研究会」を創設した一楽照雄さんで、1977年の雑誌掲載された「生産者と消費者との提携・十箇条」という原稿ががあります。その第1条にはこう書かれています。
第1条 「生産者と消費者の提携の本質は、物の売り買い関係ではなく、人と人との友好的付き合い関係である。すなわち両者は対等の立場で、互いに理解し、相助け合う関係である。それは生産者、消費者としての生活の見直しに基づかねばならない。
金子さんは数十軒の消費者と提携関係にありますが、お付き合いも二十年、三十年と長く、親戚のようなおつきあいです。人間関係も有機的なんですね。
"提携"は、日本で生まれ、80年代初頭には"TEIKEI"として欧米に紹介されました。アメリカではCSA(コミュニティ・サポーテッドアグリカルチャー)、イギリスではボックス・スキームなどと呼ばれ、定着しています。自治体単位で行っているところもあり、いずれもローカル(地域)で農産物は地産地消されています。
行き過ぎたグローバル経済に対して、ローカル経済をもっと大事にしよう、という考え方でもあります。
2月20?21日、「地域が支える食と農 ―神戸大会」(http://kobe2010.net/jp/index.html)が開かれます。国内を始め世界からCSAや有機農業の関係者が集まります。金子美登さんの講演も20日にあります!
また、霜里農場や小川町の有機農産物を食材にしたレストラン「べりカフェ」が昨年11月に小川町駅から徒歩3分のところにオープンしました。農家と市民(女性が中心です)が一緒に運営にあたっています。農家は「霜里農場」や、「風の丘ファーム」など、シェフは日替わりで料理やお菓子上手な主婦の方達が交代で務めています。水曜だけは近くのニュータウンで蕎麦屋を営むプロで、黒一点。いずれも、小川の野菜をふんだんに使ったメニューばかりです。特に土曜は「霜里農場」担当日で、TKG(たまごかけごはん)セット400円をいただけます。飼料も全て自家製で平飼の鶏の産みたての卵。ご飯、お味噌汁の味噌、具の野菜、お醤油の原料ももちろん霜里農場製です。39年間、コツコツと、つくり続けられてきた"土"から育まれた野菜や卵の滋味をぜひ味わってみて下さい。
小川の美味しい野菜「べりカフェ」
※小川町は池袋から東武東上線で70分です。
※霜里農場 http://www.shimosato-farm.com/
※べりカフェ http://blog.goo.ne.jp/seikatukoubou_1953