こんにちは高橋剛商会の平城匡史(ヒラキタダシ)です。
夏真っ盛りですが、皆さんどう過ごしておられますか?
さて、前回は稲の種まきのお話を書きましたが、今年の高橋家の種まきは5月2日でした。通常田植えは種まきから約1ヵ月後ですから、今年の田植えは6月にずれ込みそうです。例年よりも10日以上遅い今年の米作りの進捗、理由は異常低温です。農家の中には苗の「立ち枯れ病」がでているところもあるそうです。これから20日間ほど、苗の成長に気をもむ時期が続きます。どうか天候が回復し、気温が上がってくれますように(祈)。
通常はこういうハウスの中でぬくぬくと育てる
でも高橋剛と仲間たちの「苗代」は田んぼにそのまま苗箱を並べた"べたばり"方式。
寒さに強い稲を育てるための東北の「先人の知恵」である。
ところで前回、「お米はどうして直接田んぼに種を撒かず、別に苗を育ててから、"田植え"という面倒なことを行うのでしょうか。」という宿題を出しましたが、答えを考えていただけましたでしょうか。
実は、この問題には唯一の正解はありません(というかわかっていません)。
京都大学の池橋宏先生は『稲作の起源』(講談社選書 2005年)の中で、野生稲の株分け(水辺にまとまって生えている大きな株から小さな子株を切り取って、住居近くの田に移植する)が"田植えの起源"である、という説を発表し、直播(じかまき=種籾をそのまま田んぼに撒く)より田植えが古い、という新説を唱え、大きな論争になりました。
現在、世界の稲作地帯の中では、田植え地域(日本・韓国・中国の一部・タイの一部等)は少数派で、直播が主流です。直播地帯では、過去にも田植え農法は一度も根付いたことがない所が多いようです。
ところが日本では、おそらく稲作伝来の頃から「田植え」も一緒に伝えられ、歴史が記される頃には(万葉集の時代にはすでに)田植えは、一般的な情景でした。その後も日本の稲作は田植えをスタンダードとして今日に至っています。
「なぜ田植えが始まったか」という起源の問題には、答えがでないものの、「田植えという農法にどういう利点があるか」という問いには、大きな2つの正解があります。
その1:弱い苗を別の場所で大事に育てられる
その2:雑草が生えにくい。田植え前に田んぼは代かきをして、雑草の種や芽を土中に深く鋤きこんでしまう。田植え後は稲の苗が早く成長するので、他の雑草が生えにくくなる。
日本の稲作りは、「田植え」を中心に営まれ、田植えの準備のために農具が開発され、生産性を上げてきました。
ところが今、その田植えという工程が、米作りの労働生産性の足かせになっている、という問題が指摘され、直播が見直され始めています。
発芽させた種籾を専用の機械に入れ トラクターで等間隔で直播する
山形真室川の高橋直樹さんは、いち早く直播を取り入れ、様々な改良を重ねながら、農法として確立を目指しています。撒いた種籾がカラスに穿られたり、水を張るタイミングを間違えると、雑草との成長競争になったり、直播は決して「楽な」農法ではありません。それでも苗代?田植え工程が省けるなら、それは大きな労働生産性向上につながります。
もしかすると、日本の田園から田植えの光景が消える?日が来るかもしれませんね。