食料自給率が日本は先進国の中で最も低く、40%程度しかないということは知られるようになりましたね。私の回りでも食の安全保障は自衛からと、野菜やお米を自給する人が増えています。私の場合は近くの菜園を借りて野菜を作り始めて4年、お米は友人らと一緒に作るなどしています。
そして、自分の食の自給だけでなく、自分が住む地域の農業をサポートしていこう、それによって生きものが沢山いる、自然豊かで良い環境ができるということに、関心を寄せる人も増えてきたように思います。美味しいお米や野菜ができるには、良質な水が欠かせません。そういう水を育むのは豊かな土や森林です。山、里、海は密接に関わっているわけです。
これまでも、兵庫県豊岡市の「コウノトリ育む農法」や、宮城県大崎市の渡り鳥の生息地を保全する「ふゆみずたんぼ」など、農家だけでなく、市民、商工業者、自治体、専門家など多様な方達が協力して地域の農業を支え、盛り上げていっている取り組みをこのコラムでもお伝えしてきました。
※第21回「コウノトリ、マガン、トキ。生物多様性で地域づくり」
http://www.469ma.jp/health/2010/06/21.html
これらは、CSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)、地域で支える農業とも呼ばれています。
東京23区内に住んでいると遠い話のように思えますが、東京の郊外、埼玉や千葉、神奈川などには、農業地帯も沢山ありますので、近郊の都市部の居住者が、地域の農を支える活動をすることができます。
消費者である私たちは、そうした生きものを育み、環境を守る農業で作られた農産物を、まずは購入することでサポートすることができます。有機農業で作られた農産物は美味しく、私たちの健康にも欠かせません。また、企業も規模や業種に関わらず、色々な形で地域の農業をサポートすることができます。埼玉県小川町で40年ほど有機農業を続けている金子美登(かねこよしのり)さんの話も、以前にご紹介しましたが、今年その小川町の下里(しもざと)地区は「農林水産祭 むらづくり部門」で「天皇杯」を受賞されました。
受賞理由として下里集落の「『有機農業を通じた美しく豊かな里づくり』は、「地元で昔から栽培されていた在来大豆の有機農法による集団栽培を平成13年から始めました。その後、有機栽培は小麦や水稲にも広がり、近隣の豆腐店、酒造会社、製粉製麺業者、醤油製造会社、パン屋や消費者などにも支えられ、全量を完売するに至っています。
このような取組は、これまで"点"としての活動にすぎなかった有機農業を、地域ぐるみの取り組みとすることにより、"面"的な広がりへと展開するものです。また、生産者のみならず、地域が一体となって取り組む共同活動や都市住民、企業との交流、さらには自然環境の保全など『美しくて豊かな里』づくりに向けた活動へと広がりを見せています。」と評されています。
大豆は豆腐店に、お米は酒造会社に、小麦はお醤油会社や、ハーブ園のベーカリーのパンの原料になるなど、活用の範囲が広がっています。ユニークなところではさいたま市に本社のある「OKUTA」というリフォーム会社が、社員用に下里地区のお米を2年前から全量買い上げています。社長の山本さんは「わが社は、社員の給料の一部を米で払っています」などと冗談交じりに言っていますが、希望する社員は給与天引きでお米を買うことができます。「社員に安全で美味しいお米を提供し、社員の健康を守るのも社長の仕事です。そして地元の企業として地域の有機農業を応援したい」というのです。
しかも、大豆は農家の手取りが1kg500円、お米や小麦は1kg400円です。この価格は、農家が「来年も作物を植えよう!」と、元気が出る金額だそうです。新聞にも出ていましたが、今年は米価がますます下がり、1kg200円以下というような産地もあったようです。これでは、農家は赤字です。
下里地区の場合は、安定して購入してくれる会社が何社もありますから、農家の方達は安心して農業や美しい里づくりに力を入れることができるのです。最近では、周辺の山の手入れにも力を入れ、3月には群生するカタクリやニリン草の花も美しく咲くようになりました。農村らしい景観が、さらに美しくなっていっています。
「農民が元気になると村は美しくなる」と金子さん
近年では、大企業がCSR(企業の社会的責任)部を作って、色々な社会貢献活動をしていますが、中小企業でも地域の農業をサポートするという視点で本業を通じた、あるいはユニークな貢献活動をすることができるのではないでしょうか。
あなたは来年は、どこの、どんな農業を応援しますか?
下里に流れる槻川(つきがわ)の岸の斜面に咲くカタクリ、ニリン草